「固定給だから残業代出ない」は間違い、その理由を徹底解説

営業手当、役職手当などが残業代の代わりだと言われて、いくら長時間残業しても手当以外の残業代が出ない、それってなんか損してる気がするものです。

 

実は固定給だから残業代は出ないというのは間違いで、ほとんどの場合、その定額手当とは別に残業代を請求することができます。このページではその具体的なケースを解説しますので、長時間のタダ働きになっていないかチェックしてみてください。

 

残業代を固定額とすること自体は違法ではない

はじめに認識をあわせておきたいのですが、固定残業代制そのものが悪というイメージがありますが、残業代を固定額とすること自体は違法ではありません。

 

会社側の事情で言うと、毎月の残業代を一人ひとり計算するのはやっかいなので、一律の固定手当(会社によって手当の名目は違います)を支払うことで残業代に代える、という方法自体は問題ありません。

 

それに社員の中には残業代を稼ぐ目的で、勤務時間内に終わる仕事をわざと時間外に引き延ばす戦略家もまれにいるので、そのけん制の意味もあるかもしれません。

 

固定残業代制のどこが問題?

じゃあ何か問題かというと、固定手当の額が実際に働いた時間で計算した額を下回っているのに、その差額が支給されないことです。

 

要するに長時間のタダ働きを強制することが問題です。例えば基本給20万円とは別に4万円の営業手当が支給されている場合で、その4万円が残業代の代わりだからそれ以上の残業代は払えないよ、なんて会社から言われても「ふざけるな!」という思いが先に立つと思います。

 

それは至極あたりまえの考えで、4万円以上働いた分の残業代が支払われないのは違法になります。きっちり支給されないといけません。

 

固定手当と実残業代の差額の相殺はNG

実際の残業時間が少なかろうと支払われるのが固定手当です。ただ、残業代を払いたくないのが会社側の本音なので、 固定残業代制を会社の都合のいいように運用して、差額の支給を逃れようとする会社も存在します。

 

もちろんこれは違法です。具体的な例として、固定残業代として4万円が支払われているケースでみてみましょう。

 

「前月は 実際の労働時間で計算した残業代は3万円だったが、1万円多い固定残業代の4万円を支払った。今月は実際の残業代が5万円なので固定手当4万円との差額1万円を払わないといけないが、前月多く払った1万円と相殺(そうさい)しよう」という会社の言い分は認められません。

 

なお、雇用契約書などに「固定額を超える残業代は支払わない」などの規定があったとしてもそれは無効で、残業代を請求できます。

 

給料の支払いに関しては、労働基準法(24条)に会社が給料支払いで守るべき重要な5つの原則が定められていて、 そのうちの1つ「毎月払う」という原則を曲げることになります。 当月の給料は当月の中で完結させなければいけない原則なので、別の月の給料と相殺するようなことはできません。

 

固定残業代制を採用する会社の狙いは人件費削減

何時間残業しても残業代は一律支給、という会社の真の狙いは人件費をおさえることにあります。

 

残業(=時間外労働)は、通常の賃金の25%以上の割増、休日労働にいたっては35%以上の割増賃金を払う義務が法律で課されているので、会社としてはかなり痛いんですね。社員の働く時間が同じ1時間でも、勤務時間内なら1,000円、残業になると25%増しの1,250円になるのは大きな違いです。

 

これを私たちの身近な例でいうとその差を実感しやすいのですが、例えば昨日まで自販機で100円で買っていた缶ジュースが、いきなり25%アップの125円になったらキツイですよね。1日に何本も買っていたら「本数を減らさなきゃ」と思うものです。

 

それと同じで会社としては、社員が残業を1時間、2時間とすればするほど、25%増しの賃金を支払う義務が生じるので、それだったら、残業代の上限を決めてしまってそれ以上は払わないよ、というルールにしたいわけです。

 

ときどき会社側が「残業をする、しないにかかわらず残業代を払うんだから、社員に十分メリットがあるじゃないか」と、いかにも社員が有利であるかのうに話をしますがその言い分はまったく論外です。

 

会社の違法性をチェックする2つのポイント

固定残業代制はほとんどのケースで違法ですが、個々のケースで判断が難しい場合もあります。ただ、これクリアしていなかったら会社側の負け、といえる2つの条件があります。

条件1)その定額手当の実態は本当に残業代か?

そもそも就業規則などで、その定額手当が残業代の代わりだということが書かれていなければ、残業代の代わりだという会社の主張は認められません。

 

仮に書かれている場合でも、「それって残業と関係ないでしょ!」といえる状況があるとやはり認められません。例えば、

  • 残業の実態と無関係に金額が決められている
  • 残業時間が全然違う社員にも同じ額が支払われている
  • 社員が立替えている費用を補うなどの意味合いで支給されている

などです。このような場合は、定額手当とは別に残業代を請求できます。

条件2)いくら分の残業代に相当するかが明確になっているか?

定額手当に「何時間分で、いくらの」残業代が含まれているかが明らかになっていないといけません。「営業手当には残業代が含まれる」といったことしか書かれていないようなら会社の主張は通りません。要するに残業代がいくらで、きちんと支給されていることを社員が確認できる状態になっていないとダメなんです。

 

ここまで読むと、「条件1、2をクリアしていたら残業代はもらえないの?」そんなふうに思ってしまうかもしれません。

 

でも仮に2つの条件を満たしていたとしても、実際の残業時間で計算した金額がその定額手当を上回っていれば、上回った分の差額を請求することができます。

 

社員の労働に見合った給料を払わないといけない法律の定めに守られているので安心してください。もし会社が人件費をおさえたいなら、変形時間労働制と呼ばれる制度など別の方法を導入することになります。

 

求人情報を見るときの注意点

求人情報では残業代を含めた定額手当を強調して、いかにも給料が高いかのように見せている会社もあります。

 

固定残業代制の会社がすべて悪とは言い切れませんが、最初から固定残業代制とわかっている会社は避けた方が無難です。法律に従って正しく固定残業代制を行なっていようとなかろうと、「うちの会社は残業が多いです」と言っているようなものなので、ブラック企業の可能性がありますから。

 

【裁判事例】ザ・ウィンザーホテル事件(札幌高裁平成24年10月判決)

「職務手当に残業代が含まれている」という会社の主張が否定され、未払い賃金の支払いが命じられた事例です。

内容 リゾートホテルの料理人が2年連続の賃金減額に反発して退職。退職後に残業手当の支払いを求めた。
争点 固定の職務手当に含まれる残業代が何時間相当にあたるのか
判決 賃金減額確認書に署名押印してしまったので、賃金減額の合意そのものは成立したと判断されたものの、会社側の「職務手当は95時間分の残業代」だとする主張が認められず、労働基準法(36条)で上限とされている45時間分の通常残業の対価だとみなされ、月45時間を超える部分と深夜残業に対する残業代を支払うよう命令された
事実の経過 平成19年4月 賃金を月額52万191円(他には一切なし)から、基本給22万4800円+職務手当15万4400円+年2回の賞与に変更。(実質124万円の減額)平成20年4月 前回の給料カットからわずか1年で基本給18万6000円、職務手当7万4700円へさらに減額。賃金減額確認書に署名押印したがその後退職
会社側が負けた理由 1.固定残業代としていた職務手当について、「◯時間相当」にあたるのか明記していなかった。(→そのことで「無制限な定額時間外賃金に関する合意」だと判断)

2.95時間を超える残業が生じても、それに対して時間外賃金を払っていなかった。(→そのことで「無制限な定額時間外賃金に関する合意」と判断)
3.職務手当の支給により残業を義務付けていた。(会社はこの社員に対して、「こいつには職務手当分の残業をさせろ」と発言していることから、時間外労働を義務付けていたと判断。95時間という長時間残業の義務付けは、労働基準法の考えに反するため、労働基準法(36条)で上限とされている45時間分までしか認められず、それ以上の残業義務があると解釈すべきでないとされた)

 

まとめ

定額手当を残業代の代わりにすること(固定残業代制)は、ほとんどの場合許されません。固定残業代として何時間相当にあたるのかが明記されている必要があったり、その想定時間を超えた労働に対しては残業代がきっちり支払われる体制になっているなど、会社側にとってはかなり厳しい条件をクリアしてはじめて成立するものです。

 

固定残業代制はブラック企業がとる手っとり早い典型的な手口のひとつ。私たち労働者は法で守られていて残業代を請求する権利があるのに、会社任せにしてその権利の上で眠っていて損をしないように、よくチェックしてみましょう。

 

 

 

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