親の介護を理由に転勤拒否できる?拒否したら懲戒?

転勤したくてもできない切実な理由に親の介護があります。「やむを得ない事情だから転勤拒否しても許してもらえるかなあ?」とポジティブに考えたり、逆に「拒否したら懲戒処分になる?」とネガティブなことも考えてしまうものです。

 

このページでは簡単に済ませられない介護と転勤の問題を、最近の裁判例にも触れながら解説しています。法律の整備も少しづつ進んで社員側に有利になってきているのでぜひ参考にしてください。

 

一般論としては転勤拒否できない

まず一般論として聞いてほしいのですが、就業規則や労働契約に転勤義務の規定や合意があれぼ、会社はいちいち社員の合意をえなくても転勤命令を出すことができます。

 

なぜなら、契約上、社員は転勤について合意していることになっているからです(専門的に言うと包括的合意といいます)。なので、社員は正当な理由なく転勤命令を拒否することはできず、強引に拒んだりすると解雇を含む懲戒処分を受けることもあります。

 

親の介護を理由に拒否できる可能性は大

ただそうは言っても、社員は会社の奴隷ではないので、社員が転勤によってハンパない不利益を受ける場合にまで、無条件で会社側の転勤命令が認められるわけではありません。

 

その中のひとつに親の介護も入っていて、たとえ会社側に権利の乱用がない場合でも、一定の範囲で守られるので安心してください。

 

介護をする社員の味方になる法律

親の介護をする社員にとってプラスなのが、平成21年の育児・介護休業法(26条)の改正です。介護という日本ならではの社会問題がクローズアップされるのを受けた形になるのですが、転勤で親の介護が難しくなる社員に転勤を命じる場合、一定の配慮をするように会社側に義務付けられました。

 

具体的にいうと、会社は、

  • 社員本人の希望
  • 家族状況の確認
  • 転勤先での介護サービス状況

などを総合的に判断して転勤命令を出さないといけません。そのような配慮がないままで転勤を命じた場合は違法とされることが多いです。

 

転勤命令を拒否できるかどうかの大きなポイントが「不利益の程度」なので、こんなケースなら大丈夫!と明言することはできませんが、少なくと会社側がろくに話を聞いてくれない、別の社員による転勤の可能性をまったく検討しない、といったような場合は、違法となる可能性がかなり高いです。

 

ちなみに、不利益をはかるモノサシは、あくまでも介護をする上での転勤がもたらす不利益です。栄転を伴う転勤であれば、プラスマイナスゼロだよね、といった考え方は通りません。

 

その他、転勤命令を拒否できるケース

転勤により介護が難しくなるかどうかの判定は個々のケースで異なりますが、介護うんぬんを言う前に、会社として転勤を命じることができないケースが2つあります。それは、

  1. 就業規則などに転勤を命じる場合があることが明記されていない
  2. 勤務地を限定した労働契約を結んでいる

これら2つの場合は、会社は原則として社員の同意なしで転勤を言い渡せません。

 

介護に関する不利益は重視される傾向に!

転勤を拒否できるどうかのポイントが「介護上の不利益が通常でがまんできる程度のものかどうか」といったフワッとしたものなので、解釈の違いで社員の意見が通りにくいことがあるかもしません。

 

でも、上で説明した育児介護休業法の改正以降、世の中は介護(と育児)に関する不利益はますます重視される傾向にあるので、会社と闘う余地はあることを覚えておいてください。

 

そのためにも、日ごろから会社や上司には介護の問題を抱えている状況をインプットしておいて、転勤できないことを主張しておく自衛も必要です。

 

転勤命令の有効性が争われた裁判例

事例1)NTT東日本事件(札幌高裁 平成21年3月判決)

親の介護が必要な社員に対する転勤命令が不当とされ、会社に対して賠償金の支払いが命じられた事例。

内容 親の介護が必要な社員を札幌から東京へ転勤させたのは違法だとして、社員(後に自己都合退職)が転勤によって発生した精神的苦痛に対する慰謝料を会社に請求した
争点 転勤によって社員が不利益を受けたかどうか
事実 ・社員は北海道苫小牧市内から札幌に遠距離通勤しながら、苫小牧市に住む両親を介護

・父親は要介護3、母親は身体障害者等級4級
・社員の2人の妹は苫小牧市内から、相当程度遠距離に住んでいて1人はヘルニアの持病がある

判決 社員の妻が一人で介護を行うことは困難で、社員本人による介護が不可欠とされ、転勤によって社員が受ける不利益が認められて、会社に150万円の損害賠償が命じられた
会社側が負けた理由 1.別の社員を転勤させる可能性を検討しなかったこと(→同じタイミングで転勤する社員がいる中で、あえて条件の悪い社員に東京転勤を命じる業務上の必要性があったとはいえない)

2代償の検討をしなかったこと(→社員が転勤命令前に、両親の介護の必要性から、できれば両親の住まいの近くで勤務したいこと、遠隔地への転勤には同意できないことを主張していたにもかかわらず転勤を命じたのは、会社側の配慮が欠けていたとされた)

事例2)NTT西日本事件(大阪地裁 平成19年3月判決)

親の介護が必要な社員を転勤させたことが無効になった事例。

内容 親の介護が必要な社員を大阪から名古屋へ転勤させたのは違法だとして、社員(後に自己都合退職)が訴えを起こした
争点 転勤によって社員が不利益を受けたかどうか
事実 ・実父が86歳、脳こうそく後遺症やパーキンソン病を患っており外出は車いすで介護が必要。同居して入浴やトイレの世話が必要

・実母は84歳で痴呆(ちほう)の症状が出ていたので、頻繁に家に出向いて世話をする必要があった
・家族の中に両親の世話をする余力のある人がいない
・妻が肺がん手術後1年4ヶ月が経過したのみで、再発の心配がないといわれる5年を経過していない
・妻と同居して家事の負担軽減、精神的サポートを行う必要性が高かった

判決 大阪から名古屋へ転勤を無効とした

 

まとめ

転勤命令を拒否することは一般的にはできませんが、そうはいっても社員が転勤によってムチャクチャ不利益を受ける場合にまで、無条件に会社の転勤命令が認められるわけではありません。

 

特に介護事情を抱えている社員に対しては、育児介護休業法で一定の配慮をするように会社は義務付けられています。

 

介護に関する不利益はますます重視される傾向にあるので、会社と闘う余地はあるし、日ごろから会社や上司には介護の問題を抱えている事情をインプットして、転勤できないことを主張しておく自衛も必要です。

 

 

 

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