管理職の残業代なしは許される?深夜・上限なし残業は違法?

管理職だから残業代がつかないのはわかっていても、深夜まで上限なく働かされたらやってらんねーよ、月100時間も残業したら過労死認定されるくらいなのに。なんて思うのも当然です。
実はそもそも残業代がつかない管理職に該当していなかったり、該当していたとしても残業代を請求できるケースが多いです。このページでは管理職に関する多くの誤解と、本当はもらえるはずの残業代がもらえていない実態を解説しています。

 

なぜ管理職の残業代なしは、まかり通る?

労働基準法が残業代を支払わなくていいケースを例外的に認めているのが、「管理監督者」と呼ばれる立場の人です。なぜ労働者を守るはずの法律が残業代なしの契約を認めているのか?それを知るには、管理監督者と呼ばれる管理職がどのような人をさすのかを見ることでわかりきます。

 

管理監督者とは経営者に代わって社員の仕事を管理する地位にある人、つまり社員の労働時間を決めたり、仕事ぶりを監督する人で、社内で重要な権限・責任を負っている人です。そういう地位の人であれば、当然、自分の労働時間を誰の指図も受けずに自分で決められるし、立場に見合った高い給料をもらっているはずです。地位に見合った高い待遇を保障されているわけなので、残業代が支払われなくても労働者保護に反するとは言えない(認めてもいいんじゃないか)、というのが労働基準法の考え方です。

 

管理職かどうかは「肩書き」で決まるわけじゃない!

課長とか支店長といった肩書きがつくと、自動的に管理職になってしまうように感じてしまいますが、名称が偉いからといって管理職になってしまうわけではありません。このことはお役所から出た通達(昭和22年9月)に書かれています。

 

お役所ならではの小難しい表現になっているのでここでは簡単に言うと、「部下の労働条件や労務管理に関して経営者と一体的な立場にある人で、自分自身の労働時間などについて厳格な規制を受けない人、そして肩書きにはとらわれない」と書かれています。これではまだわかりにくいですね。要するに「経営者と一体」というくらいの高い権限をもっているかどうかと思えば、おおかたはずれないです。

名ばかり管理職

ブラック企業でよくあるのが、この管理監督者の制度を悪用した、残業代不払いの手口です。いわゆる「名ばかり管理職」と呼ばれる違法なやり方で、例えば入社後数年間しか経っていないのに、支店長の肩書きを与えられて管理監督者にされ、残業代なしの目にあうようなケースです。

 

一見すると支店長という責任のある肩書きですが、名称はいっさい関係なくて、「経営者と一体」といえるような実体がなく、他の社員と同じように使いつぶされているのであれば、管理監督者とは言えません。会社が都合のいいように解釈した違法な運用がまかり通っているだけです。

 

ここまで説明すると、「じゃあ経営者と一体って、具体的にどういうこと?」という声が聞こえてきそうですが、その説明は後に回すとして、このページでいちばん伝えたい「管理職は残業代がいっさい出ないという誤解」を解いておきたいと思います。

 

管理者なら深夜勤務・上限なし、なんでもあり?

管理監督者(=管理職)は残業代が出ないのが当たり前という印象が強いだけに、どんなに長時間働いても1円たりとも残業代はもらえない、とあきらめているケースが多いです。でも、なんでもありではありません。仮に管理監督者に該当する場合でも、深夜残業(午後10時から翌朝5時まで)をした場合は、会社は残業代として割増賃金を支払わないといけません。

 

例えば、飲食店のシフトを組んでいる店長がいたとしましょう。「人件費を浮かせろ!」というオーナーの要求があまりにも強いので、アルバイトを雇う代わりに残業代がでない自分が、深夜まで上限なしで長時間働き続けていたとしたら、会社のやっていることは違法そのものです。もちろん有給休暇がないというのも間違っています。

 

ちなみに、一般社員であれ管理職であれ、健康を害するような長時間労働をさせてはならないことになっていて、そのチェックをするためにも会社は管理職も含めて労働時間を管理する義務があります。なので、もし「管理監督者だからタイムカードがない」といった会社があれば、思いっきり間違った運用をしているのだと、知っておいてください。

 

管理監督者にみなされる目安は?

  1. 「経営者と一体」といえるような実体があることが管理監督者の条件と説明しましたが、これだけではわかりにくいので、もう少しかみくだいて説明しますね。目安という形になってしまいますが参考にしてください。
  2. 経営者に近い立場にあり、土日であろうが深夜であろうが仕事をせざるを得ない重要な職務についている人
  3. 経営者に近い立場にあり、社員を採用したり解雇したりといった会社内の重要な決定をひとりでできる裁量を与えられている人
  4. 仕事上、時と場所を選ばずに対応することが必要で、労働時間が決まっていないような人
  5. 高給料など地位にふさわしい待遇を受けている人

上の4つはあくまでも目安で、1つでもあてはまったら管理監督者に該当するものではなく、総合的に判断されるので注意してください。法律で明確になっているわけではないので、どうしてもふわっとした内容になってしまいますが、相当ハードルが高いことはわかってもらえると思います。

 

【裁判事例】日本マクドナルド事件(東京地裁平成20年1月判決)

内容 店長が管理監督者にあたることを理由に、時間外割増賃金、休日割増賃金を支給しない会社に対して、その店長が支払いを求めた
争点 店長が管理監督者にあたるかどうか
判決 この場合の店長は管理監督者にあたらないとされ、会社に割増賃金の支払いが命じられた
会社側が負けた理由 1.店長の職務、権限が店舗内のことに限られていたこと。(→店長が労務管理などの一端を担ってはいるものの、経営者と一体的な立場にあるとか、会社全体の経営方針などの決定過程に関わっているような事実がなかった)

2.店長の長時間の時間外労働を改善できなかったこと。(→店長は自分の早退や遅刻に関して上司の許可を得る必要がないなど、形式的には労働時間に裁量があったものの、シフトマネージャーが確保できない時間帯には店長が自ら務め、一般社員と同じように働かなくてはならなかった 。そうした実際の勤務実態からすると労働時間に関する自由裁量があったとは認められなかった)
3.店長の下位の社員よりも年収が低かったこと。(→S、A、B、Cの4段階で賃金が評価される中、C評価の店長は、部下のファーストアシスタントマネージャーの平均年収よりも低く、管理監督者の待遇としては十分とはいえなかった)

これ以外にも管理監督者に該当するかどうかを裁判で争われた場合には、世間の常識とは大きく違って会社が負けることがとても多いです。

 

まとめ

管理職(=管理監督者)には残業代がいっさい付かない、と思っていたらそれは間違いです。管理職であっても深夜残業をした場合は、会社は残業代として割増賃金を支払わないとなりません。また、そもそも肩書だけで残業がつかない地位になるわけではなく、経営者側に近い社内で重要な権限・責任を負っているといった実体がないと対象にはなりません。

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